人を育てようと思うな。

ビジネスの世界では、組織の成功はそのリーダーによって大きく左右される。リーダーとしての役割は、方向性を示し、業績を追求するだけでなく、チームメンバーが成長し、繁栄するための環境を整えることである。

しかし、多くの管理職が陥りがちな罠は、自分自身が直接的に人を「育てる」必要があると考えてしまうことにある。この考え方は、一見責任感が強く、崇高な目標のように見えるが、捉え方を間違えてしまうと部下への過度な介入につながり、結果的にはチームの自主性と自発性を阻害することが多い。

目次

本質的に何が必要なのか?

それは、人が正しく「育つ」ための環境を整えることである。

スポーツの世界で優秀なコーチは、まずグランド整備から始める。小石拾いや芝刈りなど、ピッチ上で選手が怪我することなく伸び伸びとプレーができるような環境を最初に整える。ビジネス界でも同じことが言える。これには、適切なリソース、機会、サポートを提供し、心理的に安全で開かれたコミュニケーションの場を作ることが含まれる。このような環境下を作って初めて、各メンバーは自己実現の道を見つけ、そのポテンシャルを最大限に発揮することができるのだ。

個々のニーズと強みに基づいたサポートを。

あなたの役割は、メンバー1人ひとりと対話し、それぞれの目標と興味を理解することである。そして、その情報を基に、彼らが成長できるような機会を提供することである。さらに、メンターやコーチとして、ありたい姿を達成する為の支援を果たすことが求められている。

指示ではなく、『問い』を与えよう。

WHYを伝えないと人は動かない。HOWを伝えすぎると人のモチベーションは下がる。これが人を動かす本質だ。考える社員を育てたい。そう考えるリーダーは多い。では、一度、ご自身の胸に手を当てて思い出してみて欲しい。メンバーに対して指示を与えすぎていないだろうか?本当に必要なのは指示ではなく、問いを与え、挑戦を促し、失敗から学ぶ機会を提供することである。それによってメンバーは自己成長の一連のプロセスを経験することができる。このプロセスを通じて、彼らは自身のキャリアパスを考え、探求し、新しいスキルを身につけ、自己成長を遂げることができるのだ。

失敗を許容し、学びの機会として捉える文化を。

新しいアイデアやアプローチを試す自由をチームメンバーに与えることで、革新と成長の源泉を作り出すことができる。最終的に、あなたの最も重要な役割は、人を「育てる」ことではなく、各メンバーが自らの能力を最大限に発揮できるような環境を提供し、そのプロセスを支援することであると理解しよう。

リーダーへの提言

①1on1の実施:メンバー1人ひとりと週次、あるいは2週に1度の1on1を面談を行い、個々の目標、興味、強み、改善点を理解しよう。ここでのポイントは自身が話をするのではなく、メンバーの話をよく聴き、ありたい姿に向けて必要なサポートを全力で支援することにある。

②リソースと機会の提供:メンバーの成長をサポートするためのリソースと機会を特定し、アクセスを容易にする。人、モノ、カネ、時間、情報。これらリソースを適切に配分することがマネジメントの本質でもある。

③安全なコミュニケーション環境の構築:オープンで安全なコミュニケーションが行える環境を作り、意見やアイデアの共有を促す。心理的安全性が担保されていない職場からはチャレンジングな目標設定や取り組みは生まれない。

④メンタリングとコーチング:メンタリングやコーチングを活用して、メンバーが挑戦し、成長できるようサポートする。必要に応じて社内他部署の社員にメンターを依頼するなど異なる角度からの視座を与える機会を提供してみる。リバースメンタリングやPeer to Peerコーチングの文化醸成もメンバーの成長支援に役立つだろう。

⑤失敗を学びの機会とする文化の促進:失敗を受け入れ、それを学びの機会として捉える文化を醸成する。失敗を責めることなく、まずはチャレンジの姿勢を褒めよう。人の成長という観点では失敗から何を学ぶか?が最も重要な要素である。

⑥イノベーティブなアイデアを奨励する:新しいアイデアやアプローチを試すことを奨励し、リスクを取ることの価値を認識させる。イノベーションは、日々の創意工夫の中にしか生まれないからだ。

⑦継続的なフィードバックの提供:定期的なフィードバックを通じて、メンバーが自身の進捗を理解し、改善点を認識できるようにする。ポジティブなことも、ネガティブなこともきちんとフィードバックできる文化を作る。相互フィードバックのない組織は、まず成長しない。

⑧自己学習と自己発展の機会の提供:オンラインコース、ワークショップ、セミナーなど、自己発展のための機会を提供する。メンバーの成長に必要と思われる投資は積極的に行っていこう。

⑨目標設定のサポート:メンバーが実現可能で意義のある個人目標を設定できるようにサポートする。SMARTな目標設定を1on1を通じて設定しよう。

  1. S(Specific:具体的に)
  2. M(Measurable:測定可能な)
  3. A(Achievable:達成可能な)
  4. R(Related:経営目標に関連した)
  5. T(Time-bound:時間の制約がある)

⑩チームビルディング活動の実施:チームの結束を高めるための活動を計画し、実施する。チームの目標設定やミッション、ビジョンなど、時間をかけてでもチーム内で目線合わせを行う。まずチームとして向かうべき方向性を定めた上で、チームビルディングの機会を作ろう。

上記のアクションプランを実行することで、メンバーが自らの能力を最大限に発揮できるような環境を整え、チーム全体の成長と成功を促進することができるだろう。

《総括》

ビジネスの成功は、リーダーが人を育てようと直接的に指示することではなく、メンバーが自ら成長し、能力を最大限に発揮できる環境を整えることにある。

そのために、まずリーダーはメンバー個々の目標や強みを理解し、それに応じたリソースや機会を提供することが重要だ。これにより、メンバーは自己成長の道を探し、組織の目標に貢献できる。また、心理的安全性とオープンなコミュニケーションの場を作り、1on1やメンタリングを通じて成長機会を促す。失敗を学びの機会として捉える文化を醸成することで、メンバーは新しいアイデアやアプローチに挑戦しやすくなり、自己成長が進んでいく。

さらに、継続的なフィードバックと自己学習の機会を提供することで、メンバーは自らの進捗を理解し、成長を続けることができる。このようにして、メンバーの自己成長と組織の成功が両立するようになるのだ。

そしてチームビルディング活動でチームの結束を強化し、組織全体のパフォーマンスを向上させる。これらを実施することで、メンバーの成長を日々実感できるようになる。そうして始めてリーダーの役割は、メンバーを直接育てることではなく、彼らが成長する環境と支援を提供することだという本質を理解できるようになるだろう。

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